八丁蜻蛉(ハッチョウトンボ)
















日本で一番小さなトンボ。体長は20mm前後しかなく、1円玉にすっぽりと収まるぐらい小さい。

茶褐色で縞模様のメスに対して、オスの成虫は鮮紅色をしている。翅は透明だが、付け根は橙色で美しい。
オスは縄張りをつくり、湿原の植物に止まってメスを待っている。そのため、一度飛び立ってもすぐにお気に入りのホームポジションに戻ることが多い。

ハッチョウトンボの名の由来は江戸時代尾張藩医で本草学者・大河内存真(1796-1883)の『蟲類写集』に「『ヤダノテツポウバハツチウメ』(矢田鉄砲場八丁目)のみで発見せられるために『ハツチウトンボ』の名を有する」とあることによる。
大河内存真の実弟は伊藤圭介(1803-1901)。東京大学教授で明治の医学者・本草学者で日本初の理学博士。「雄しべ」「雌しべ」「花粉」は伊藤圭介が作った用語として知られる。

名古屋大学附属図書館には『伊藤圭介文庫』が残され、そこに伊藤圭介編『錦窠蟲譜』がある。
そこには鮮やかな赤色で彩色されたハッチョウトンボ(オス)が3匹描かれている。
注記は

 「尾張産 八丁蜻蛉」とあり、その下に「雄」と朱書され、「明治十八年九月十五日写」と書かれている。

湿原の開発によってハッチョウトンボの生息域は減少を続けている。
生物多様性やSDGsという言葉だけに終わらせない覚悟が、私たちに求められている。

                   2021年7月22日 撮影