2003年9月27日
長野県白馬村八方尾根より
昨晩岐阜を出て、黒菱林道終点に着いたのが11時半頃だった。満点の星空とくっきりと浮かんだ天の川と火星が印象的な黒菱平からの星空だった。3週間前の八方池での撤退が頭をよぎるが、今回は大丈夫のようだ。目覚まし時計を忘れたことを後悔する必要もなく、明け方の寒さに目が覚めた。3時を過ぎた頃から何台もの車が上ってくるようになり、昨夜数台しかなかった駐車場は明け方には15、6台を数えるまでに増えていた。朝日に真っ赤に焼ける白馬三山を撮ろうと寝袋をはい出したが、意外にもガスに覆われていて、写真を撮ることはできなかった。どうやら明け方からガスが上り始めたようだ。あきらめて東の空を見る(5時39分、写真左)。北寄りの地平線には雨飾山の小さな三角の頭が顔を出していた。湯を沸かして朝食をとっていると、次から次へと車が上がってきた。中には数台のタクシーで乗り込んでくる中高年の女性の一団など、にぎやかになってきた。話を聞いていると、今日は五竜山荘まで歩くとのこと。明日は五竜岳に登り、遠見尾根を下るという行程のようだが、7〜8名の一行に誰一人として歩いたことがないらしくて、話している中味もどこか危なっかしい。7時30分黒菱第3リフトの始発に乗り、終点から次のグラートクワッド乗り場へ歩く。湿原は草紅葉が始まっていて、遠くには先ほどまで全く見えなかった白馬三山が少しだけ顔を出している(7時43分、写真右)。 | |
グラートクワッド終点はすっかりガスの中。白馬三山の展望もないため、尾根ルートではなく山腹の自然研究路を歩くこととする。ガスで濡れている蛇紋岩の滑りやすい道をゆっくりと歩く。前には前夜八方池山荘で宿泊した人が八方池を目指して歩いているのが見えた(7時52分、写真左)。八方池の直上に出るが、やはり一面のガス(8時30分、写真右)。池畔では三脚を構えた多数の人が、ガスが晴れるのを根気強く待っている。早朝に八方池山荘を出て、ここで待っているとのこと。どうも今年の秋は天候が安定しない。次から次へとわき上がってくるガスは、まるで夏のようだ。 | |
8時53分、草紅葉が美しい登山道の向こうに、青空と丸山ケルンが見え始める(写真左)。こうでなくっちゃ、と足どりも自然と軽くなる。8時55分、ガスの向こうに五竜岳も顔を出している(写真右)。紅葉が進みつつある山肌が美しい。もうちょっとがんばって晴れてくれ、と祈るような気持ち。 | |
単独行ばかりの3人が、いつの間にか一緒に歩くようになり、前には登山者は誰も見かけないようになった。1人は写真を撮りに、もう1人は今日は五竜山荘までの行程という。団体さんが全くいない山行は、実に静かだった。覆っているガスもいつかは晴れるだろうと、なんだか気分まで楽観的になってくる。9時12分、扇雪渓に到着(写真左)。初夏の頃とはうってかわって、ずいぶん小さくはなっていた。ここで小休止。上を見ると少しずつ晴れ間が見える。これはいいかもしれない。赤くなりかけているナナカマドを見ながら、急登を歩き丸山ケルンを目指す。丸山ケルンに着くと、ガスの晴れ間には不帰ノ嶮が顔を覗かせていた(9時34分、写真右)。山肌は秋の色だ。ここで大休止と決め込む。今のうちに写真を撮らなくては。 | |
丸山ケルンを過ぎたあたりで草紅葉の間から何かうごめくものを発見する。登山道のほんのすぐ横だ。あれっとばかりに目をこらすと、ライチョウの親子らしい3羽がいた。ライチョウは唐松岳頂上山荘から山頂までの尾根筋で見かけたことはあるが、こんな低いところで見るのは初めてのこと。逃げる様子もないので、何枚もの写真を撮る。保護色とはよくしたもので写真から3羽のライチョウが見分けられるだろうか(9時42分、写真左)。青空が少しずつ広がってきた。秋色に彩られた尾根の向こうに唐松岳と不帰ノ嶮がくっきりと見える(9時47分、写真右)。空気は澄んでいて、まるで縁取りをしたような稜線が鮮やかだ。 | |
ガスは白馬三山と五竜岳を覆っていて、ちょうどその隙間になる唐松岳だけは青空の中。ここでも今のうちに写真をと、忙しい(9時52分、写真左)。唐松岳頂上山荘からの下山者に昨日の様子を聞くと、大変な雨だったらしい。夜の星空はきれいだったが、明け方の立山方面は一面のガスで余り見えなかったとのこと。それから比べると今日の天候に文句を言っては罰が当たるというもの。鎖場を過ぎると、頂上山荘は目の前(10時19分、写真右)。山荘前でザックをおろして、大休止。 | |
山荘前から五竜岳を見る(10時24分、写真左)。このあとすぐガスに覆われて、二度と見ることはできなかった。唐松岳頂上山荘は北棟の改修工事に入っていた。管理人さんの話では、修学旅行が終わってようやく工事に入ったとのこと。山荘前は空いていて、山荘で働いているのだろう、アルバイトの若い人たちがのんびりとくつろいでいた。今日はいったい何人来るだろうかと、恐ろしい数を予想していた。やはりこれから登ってくるのだろう。唐松岳山頂もガスで覆われているが、時折晴れ間も見えている。まあ行ってみるかと、歩き始める(10時31分、写真右)。 | |
10時50分山頂着(写真左)。山頂は2、3人があるだけで実に静かだ。あいにくと一面のガスで、何も見えない。一昨年は夏と秋と、2度の360度の大展望を満喫したことがウソのよう。風は強く、寒い。山頂で出会った人から山の情報などをいろいろと交換して、山荘まで下りることとする。唐松沢は雪渓が残っている(11時17分、写真右)。 | |
山荘前で湯を沸かして、コーヒーを飲んでのんびりとする。いつの間にか山荘前には八方尾根を登ってきた登山者が続々と到着していた。ここで一休みしたのち、次々と唐松岳へと登っていく。一足早くてよかったよかった。大黒岳方面を見ると、ガスの中を五竜山荘へ向かって登山者が岩場を登るのが見える(11時35分、写真左)。一昨年、昨年と2度登った五竜岳だが、今年はお休み。山荘前は次々と登る登山者でごった返すようになってきた(写真右)。11時44分、ザックを背負い下山することとする。 | |
下山路は登山者とのすれ違いで大変だった。静かな山と思ったのは大間違いで、ただ単にボクの歩いたのが早かっただけだった。目印のリボンをつけた20人あまりの団体さんもあったりと、大変である。12時15分、丸山ケルンに着くと、「もう行ってきたのですか。」という声をかけられる。ああ、朝、リフト待ちで一緒になった女性ばかりの7、8人のグループだ。山荘まではどれぐらいですかとも聞かれる。今日は唐松岳山頂へ行ってから五竜山荘へ行くというが、ボクはてっきり唐松岳をエスケープして牛首の嶮を歩いているとばかり思っていた。始発のリフトに乗り、この時間でまだ丸山ケルンということは、かなり厳しいんじゃないかと、人ごとながら心配になる。13時02分、八方池はやはりガスの中だった。朝見かけた三脚を構えるカメラマンがまだ辛抱強く粘っていた。ここで小休止。13時56分、八方池山荘着。ちょっと寒いかな、と思いながらも恒例のソフトクリームをほおばる。やっぱりこれでなくっちゃ。黒菱林道終点の駐車場はいつの間にか満車状態となっていた。着替えをすませ、のんびりと高速を走らせて岐阜まで戻った。 ※唐松岳は北アルプス入門の山とされ、たくさんの人がここを訪れる。技術的に難しいところはないが、しかし体力が必要でないかといえば、そうではない。ここを勘違いすると大変なことになるのではないかと思う。唐松岳頂上山荘の管理人さんの話では、今年は白馬乗鞍岳や八方尾根で救助のヘリがずいぶん飛んでいるそうだ。行程にゆとりをもって十分な準備のもとに山へ向かいたい、と改めて思った山行きだった。 |