201411 揖斐谷の秋


村を流れる揖斐川は、ダムが放流する時だけ水流を取り戻す。
放流のサイレンは本来の川を呼び戻す。
ほんのひとときの川。

かつて揖斐川は可航河川だった。
村には船着き場もあった。

西平ダムに始まる発電所建設によって、
揖斐川は鮎の遡上も叶わない川という名の水路となった。
そして徳山ダムができた。

徳山ダム周辺の紅葉は見頃を迎えている、という。
多くの車が僕の村を訪れる。
聞くとカメラの三脚が林立するらしい。
僕は村に暮らしていながら、足が向かない。

徳山村8集落それぞれの背後の山は留山として伐採を免れていた。
戦後の大規模伐採の災禍をくぐり抜けて生き抜いた、見事なブナ林だった。
雪解けとともに木々は目に鮮やかな新緑に輝いた。
そして山に雪が降りる頃、ため息が出るほど美しく色づいた。
深い雪に覆われるまでの、つかの間の秋。

その見事な紅葉は今も目に焼き付いている。
どんな写真よりも鮮やかに。

徳山村廃村から27年目の秋が終わろうとしている。