白馬岳(2932.2m)
2005年7月22〜23日
長野県白馬村猿倉より
(登山ルートは20040807を参照のこと)

第1日

先週の三連休が天候に恵まれなかったため、混むことが心配された今週末。1日ずらして、金曜日に大雪渓を登ることとした。前日深夜宿泊したアルペンロッジ岳都さんに猿倉まで送っていただく。猿倉はびっくりするほどの人であふれていた。この日はツアー登山客が多いらしい。登山届けを提出して、6時25分に猿倉を出発する。今日は晴天で、御殿場までの林道からは白馬岳が見えている(写真右)。みんな足を止めては白馬岳を見上げたり、写真を撮ったり。
御殿場を過ぎて大雪渓遊歩道に入ると、容赦なく夏の日差しが照りつけてきた(7時、写真左)。7時19分、白馬尻に到着(写真右)。
白馬館の白馬尻小屋は例年と場所を変えて、山寄りに建てられていた。そのため、従来テラスだった所は、広い広場となってベンチが置かれていた。ここからは大雪渓と白馬岳が一望できるため、登山を控えてみんなが大雪渓を見上げている(写真右)。今年は大雪渓の雪の残りが多いようだ。白馬尻小屋前の広場から大雪渓と、大雪渓を登る登山者が手に取るように見える(写真左)。
写真左は白馬尻小屋周辺に群落を作っていたキヌガサソウ。水を補給して、7時35分出発。ほんの少し歩いた所で、雪渓に取り付いた。(7時47分、写真右)。雪渓への取り付きはアイゼンを装着する人であふれかえっていた。このあたりに咲いているはずのミヤマキンポウゲは、今年はまだほとんど見かけなかった。
数年前、土石流(正確には雪渓を突き破った豪雨による水流)によって流出したケルンは、新しく作り直されていた(写真左)。7時55分、雪渓を登り始める。冷気立ちこめる雪渓を、みんな黙々と登っていく(写真右)。
雪渓中央にはベンガラがまかれているが、所々にクレバスが走っている。これを迂回したりしながらも、まっすぐに進む道は、昨年よりもずっと長い。大雪渓の中程まで来ると、冷気によるガスも晴れてきた(8時30分、写真左)。昨年は雪渓を離れて夏道へとルートを変えていた雪渓上部にも、今年は雪が多く残っていて、雪渓はどんどん傾斜を増していく(9時26分、写真右)。
杓子尾根からの崩壊による落石が目立つ急登を過ぎるとようやく大雪渓は終わりを告げる(9時34分、写真左)。それにしても大雪渓上部は傾斜がきつく、フラットに足をつけにくい。そのためどうしてもつま先で雪を踏む形になるため、軽アイゼンの人はずいぶん滑っていた。こちらは今年もまた12本爪。ちょっと大げさかと思ったが、みんな現在の雪渓の状態をよく知っているのだろう、今年は6本爪以上のアイゼンの人をたくさん見かけた。もちろん10本、12本の人もたくさんいた。ここからは大雪渓ルートの核心部分である、枕木階段が待ち受けている。アイゼンをはずした人たちが、そのまま枕木をベンチにして休憩している。早速ミヤマオダマキが出迎えてくれた(写真右)。
登山道から大雪渓を見下ろす(10時07分、写真左)。アリの行列が続いている。この辺りから次々といろんな花が姿を現し始めた。まずはミヤマキンポウゲの群落。杓子尾根を従えている姿は見事だ(写真右)。
写真左はクモマミミナグサ。この辺の蛇紋岩の影響で変性しているのだろうか、紫色がかっている。そして、写真右はシロウマオウギ。イワオウギがやや黄色がかっているのに対して、シロウマオウギは純白だ。
ハクサンフウロもたくさん咲いていた(写真左)。クルマユリも負けずと咲いていて、次々と現れる花の撮影に大忙し。三脚を出してカメラを構えたり、クローズアップレンズを付けて接写したりしているうちに、大雪渓で追い抜いたいくつもの団体さんに追いつかれてしまった。20人だとか、30人だとかの団体が次々と登ってきて、ゆっくり撮影どころではない。この天候なら、雷の心配もないだろうと、今日は花の撮影をメインにとようと心を決め、団体が通るたびに三脚を移動させては、通過後に再び撮影と、結構忙しい。
ゆっくり撮影した後は、小雪渓へ(11時21分、写真左)。夏道は雪渓の下となっているため、左へ迂回して雪渓をトラバースする。見上げると、一度はずしたアイゼンを再び付けるため、小雪渓の取り付きでは大渋滞していた。この大部分が団体さんだ(11時32分、写真右)。団体さんを一通り見送って、ようやく自分の番が回ってきた。
小雪渓は始め急登で、それからトラバースする。ステップが切ってあるためアイゼンなしでも問題なさそうだが、傾斜が急なので転んだら真っ逆さまに滑落する。向こうは杓子尾根(12時12分、写真左)。小雪渓を渡り終えるとハクサンイチゲの群落があった(写真右)。
写真左は避難小屋。昨年夏はここでもう雷鳴がとどろいていて、グリーンパトロールが「登れる人は早く登ってください」とせかしていた。みんな登りたくとも足が上がらない様子だった。この日もパトロールが案内していたが、風はずっと吹き下ろし。天候の悪化の心配はなさそうで、誰もがゆったとり休憩していた(12時23分、写真左)。写真右は避難小屋から少し登った所にある水場。みんなが休んでいるその後に雪渓から溶け出した冷たい水が流れている。ここで水を補給する。
葱平のお花畑は、一面にシナノキンバイが咲いていた(写真左)。写真右はあまり見かけないミヤマクワガタ。小振りなヒメクワガタも咲いていた。再び三脚をたてて、クローズアップレンズを付けたりはずしたりと、またまた忙しい。
登山道には登山者の列がずっと山頂まで続いている(写真左)。まあ、今日は急いでも仕方がないと心に決めて、ちょっと歩いては花を見つけてザックをおろして三脚を据え、また歩いては三脚を据えの繰り返しである。写真右はタカネシュロソウ。赤みがかった花が独特だ。
写真左はタカネツメクサ。イワツメクサが10弁花に見えるのに対して、こちらは5弁花。写真右はイブキジャコウソウ。
見上げるとまだまだ登山者の列は山頂に向かっている(13時28分、写真左)。そろそろ登ろうかと思っていると、クロユリのつぼみを見つけた(写真右)。開花しているクロユリを探したが、私には見つからなかった。途中パトロールの人が登山者をカウントしていたので聞いたところ、今日は600名ほどだという。結構登ってきているものだ。
葱平でびっくりしたのは、ここにもウルップソウが咲いていたこと(写真左)。もう花期を終えようとしていたが、たくさん咲いていた(写真左)。南八ツの横岳に続いて二度目の出会いだ。花のアップを撮ったりと、本当にたくさん撮影してようやく腰を上げて頂上宿舎についたのが14時20分だった(写真右)。宿舎前の広場には、団体さんが白馬館の白馬山荘へ登るために休憩していた。
宿泊手続きは後回しとして、ザックを持ったままレストランへ直行。満員かと思ったら、わずか数人が休んでいるだけだった。生ビールは枝豆付きで850円。牛肉コロッケはキャベツ付きで100分、これでしめて950円である。去年あった300円という激安な、巨大な竜田揚げはメニューから消えていたので聞いてみると、その代わりに同じ300円で今年はジャンボチキンカツがありますよとのこと。一人では食べきれないので、コロッケを注文した次第。ビールをお代わりして撮影データの整理。もう250枚以上も撮っている。データをストレージにコピーしながら、話のネタにとディナーセットを予約。ここで宿泊者カードを書き、通常の1泊2日の料金にプラスすること750円となる。17時からと18時からのどちらかを予約できるため、18時からを予約。それだと、入れ替えなしで19時以降の一般客が入るようになっても、ここでのんびりすることができる。外は相変わらず快晴で、この時間になっても杓子岳と白馬鑓ガ岳を望むことができた。
フロントで宿泊手続きをすませて、ザックを部屋に置いて、カメラと三脚を持って外に出た。頂上宿舎付近にはミヤマオダマキ(写真左)や花期が終わろうとしているウルップソウがたくさんあった。写真右は主稜線へ登って撮った頂上宿舎と杓子岳。
ついでに白馬山荘まで出かけてみた。白馬館の白馬山荘は今年で100周年。ここに宿泊すると記念品がもらえるというが、次から次へと団体さんが登っていくのをみると、やっぱり遠慮したくなってしまう。そういえば、去年の秋にはスカイプラザという町並みのレストランを覗いてびっくりしたものだ。分岐までとって返して、丸山まで登り返した。そこからは白馬岳はもちろん、明日向かう杓子岳と白馬鑓ガ岳がよく見えた。風は依然として日本海側から吹いていて、長野側からは全くガスが上がってこない。雪倉岳や朝日岳もよく見えたが、時折ガスの合間から剣岳が顔をのぞかせていた。このとき誰もが明日の晴天を疑わなかったはずだ。
レストランの予約時刻を気にしながら、宿舎に戻る。写真左は主稜線下で雪解け直後に咲き始めたチングルマ。写真右は主稜線付近のまだ元気なウルップソウ。
写真左はウルップソウをアップで1枚。この日、結局300枚以上撮影したことになる。そのしめくくりは、レストランのディナーセット。単独登山者で注文したのは私だけかと思ったら、そうでもなかった。メニューは贅沢なサーロインステーキ。だいたい、平地でも食べることなんて滅多にないのだ。それにコンソメスープと後でコーヒーがついてくる。食事をしていると、小屋の人が「気がつかれましたか」と声をかけてきた。よく見ると、ステーキに「白馬岳頂上」と焼き印が押されているのだ。これには感心。食事をする人がみんな満足そうだった。テレビの天気予報は、明日の天候を晴れ時々曇り、降水確率10パーセントと告げていた。心は白馬三山縦走へと飛んでいた。
※この日の部屋は、定員48名の所が5名。布団1人に1枚どころか、とんでもない贅沢だった。雪渓を上がってきた登山者を仮に700名とすると、その8割がたが白馬山荘に向かったということになる。それにしても、三連休の登山者が少なかったことから、いくら金曜日といっても混むだろうという予想は大外れ。白馬岳の登山者が年々減少しているというが、やはりそういうことなのだろうか。あるいは、もともと山のキャパシティーを大幅に超して人が押し寄せていたのが、元に戻りつつあるということなのだろうか。
※村営宿舎の一般の夕食は、最盛期特別メニューの白馬特産無菌豚を使ったメニューだったらしい。去年は最盛期はウナギだったそうだ。そういえば、下のレストランも一部模様替えしていたが、食堂もテーブルや椅子が一新されていて、立派になっている。100周年ということでたくさんの宿泊客が見込まれる白馬館に対抗して、ということだろうか。現に他山域の小屋の名前を挙げてはここの施設・設備の良さを語る人もいた。同室は男ばかり、単独登山者が私を入れて3名、2人連れが1組だった。

第2日

朝3時少し前、激しい雨とガラスをたたきつける雨で目が覚めた。外に出てみると、なんと雨。しかも風が強い。後で聞いた話だが、テン場のテントも飛ばされたという。4時過ぎても収まる気配はなく、ごそごそと起き出した他の人も今頃はご来光を見ているはずなのにとか、今日はどうするか、などと話していた。5時過ぎの天気予報をラジオで確認すると、どうやら日本海側から太平洋側に向かって南北に走る弱い前線があるらしく、西日本の猛暑と東日本の冷夏を分けているらしい。その前線がちょうどこの辺りにかかっているのではないか、という結論に達した。弱い雨ならともかくも、強風が吹いているため、三度当初計画を断念。雪渓を下ることにした。この日の朝食は弁当を頼んでいたが、これは白馬尻までとっておくこととし、持参した食料で朝食を済ませる。ザックを持って下のレストランへ移動して、そこで7時前の天気予報を見ることとする。天気図は予想通りで、どうやらすぐにはよくなりそうもない。下山すると決まったら、もう気分はダラダラである。他の人もそうらしく、のんびりとモーニングコーヒーを1杯。宿泊者限定で、朝のコーヒーは200円と通常の半額。牛乳を入れておいしくいただいた。7時18分、カッパを着込んで雨の中、下山開始(写真右)。
登山道も一寸先は見えないほどのガス。滑りやすいため、慎重に足を運ぶ。それでも避難小屋に着く頃には小雨ながらも少し明るくなってきた(7時55分、写真右)。
カッパを着ていると暑いので、避難小屋でこれを脱いで、小雪渓を渡って枕木の登山道を下山する。大雪渓にはこの天候にもかかわらず、次々と登ってくるのが見えた(8時30分、写真左)。大雪渓を下山すると、傾斜の変換点ではたくさんの人が休んでいた(9時27分、写真右)。
9時57分、いよいよ大雪渓も終わり。ここでアイゼンを外す。登ってくる人がたくさんアイゼンを付けていた。ここで指示していたパトロールの人に人数を聞いてみると、930人余りだという。土曜日なのでもっと混雑を予想していたが、予想よりもずっと少ないとのことだった。白馬尻小屋到着が10時16分(写真右)。ここでまずソフトクリームを注文。次に生ビールを片手にのんびりと弁当を食べた。岡山県から家族連れで来て、今朝下山してきたという人が、この傾斜で軽アイゼンではきついですねえと話しかけてきた。私の12本爪がうらやましかった、と。
白馬尻には観光客もやってきていて、ガスが薄くなって、大雪渓が見え始めると歓声を上げたりしていた。ここから猿倉まではのんびりと写真を撮りながら歩く。写真左は実をつけたサンカヨウ。やっぱり今回も縁がなかったと、鑓温泉への分岐(写真右)を見ながら猿倉へ戻ったのが13時ちょうどだった。猿倉からはアルペンロッジ岳都さんのお迎えで、和田野に戻った。
風呂に入って、ビールを飲み、昼寝をしてから和田野の散歩中に撮影した花。左はオダマキ、右はカライトソウ。
※今後こそはと意気込んだ白馬三山縦走だったが、よほど行いが悪いせいか、残念な結果となった。考えて見たら、今回も山頂を間近で見ただけで丸山へ迂回してしまったのだった。しかし、1日目の好天のおかげで、2日間で撮影した画像は400枚を越えて、JPEGでも総データ量は4GBにもなった。予備バッテリーを持参して正解だったし、ストレージも夜に随分閲覧した割にはバッテリーに余裕があった。今回、銀塩、デジタルを問わずに一眼レフを持ってきている人が随分たくさんいたのには驚いた。こちらはデジタル一眼をパスしたけれど、ちょっと残念だったかもしれない。
※今年の大雪渓は、雪の残りが多くて長い距離と標高差を歩くこととなった。そのおかげで、楽をした所もあるが、これだけの傾斜だと2本や4本のアイゼンではなかなかしんどい所もある。下りではなおさらだろう。雪渓の状態をあらかじめ知っておくことの大切さを知った。この道は何度歩いても楽ではないが、雷の心配もなくのんびり登ったおかげで、今回たくさんの花を見ることができたことに何よりも感謝したい。やはりいい山だと思う。ぜひ歩いてみて、その素晴らしさを知って欲しい山だと思う。
 さて、次のリベンジの機会はあるか?