花房山(1189.5m)
2004年4月29日
岐阜県揖斐郡藤橋村東杉原より


レリーフの等高線は20m。スケールの単位はm。
一昨日の大雨のため、河川が増水。今日の山行きは谷に関係なく尾根ルートということで、花房山に決定。といっても、近くにいながらいつもは小津権現山などから見るだけで、今回が初登山である。自宅から車を15分ほど走らせる。東杉原に建物だけが残る善勝寺横の招魂碑前に車を止める。朝早いため当然のことながら誰もいない。登山口は駐車スペースと林道を挟んで向かいにある(写真右)。何の標識もないが、わずかに赤テープが巻かれた痕跡がある。7時21分に出発する。クマとの遭遇はかなわんので、念のため胸のラジオの音量は少し大きめとする。
地形図で明らかなように、花房山から北西に延びる一直線の尾根をたどる。登山口から山頂までの標高差は約1000mであるが、途中に2つほどピークがあり、ピーク前後はやせ尾根となっていることがわかる。尾根にたどりつけば、迷うことはないが、踏み跡をたどり登り始めると、すぐに踏み跡が消えた。あたりを見回すとロープが1本下りている。そこで急登を一気に登る。その後も所々にロープが張ってあるが、頼らねばならないほどではない(7時30分、写真左)。しかし、雨降り後には滑りやすいことは容易にわかる。いかなりの急登を喘ぎながら登ると、植林帯の間にシロモジの新緑が目に鮮やかだ(8時18分、写真右)。
急登を一気に登ると、最初のやせ尾根が現れた(8時30分、写真左)。まだ土壌が表面を覆っているため岩盤ではないが、両側から崩落が進んだために中央だけが残った形だ。木の根につまずかないように慎重にやせ尾根を通過ししばらくすると、樹間から能郷白山が目に飛び込んできた(8時43分、写真右)。先週の小津権現山よりも能郷白山に近いため、ぐっと近くに感じる。空は抜けるように青い。
尾根をふさぐような大石(9時08分、写真左)。濡れていると滑りやすそうだ。なおも高度を稼ぐと、西に天狗山と、その向こうに蕎麦粒山が見えてきた(9時12分、写真右)。思わず感嘆の声。歩き始めた時の気温は7度だったが、日差しがどんどん強くなっていることがわかる。山頂に着いた頃には暑いぐらいだろう。
2つ目のピークを超すと、今度は本当のやせ尾根が現れた。岩稜を慎重に歩く(9時21分、写真左)。やせ尾根を過ぎると、再び急登となり、喘ぎながら一気に登る。10時15分、花房山西峰に到着(写真右)。
三角点のある本峰よりも西峰の方が眺望がよい。というよりも、これ以上の眺望があろうかというほどの360度の大展望である。ザックを下ろすと、いつまでも飽きることなく見続けていたい気分である。写真左は能郷白山の右に白く輝く加賀白山。その手前は屏風山。写真右は徳山ダム建設現場を見下ろした所である。かつて天保年間の「細見美濃国絵図」に「餅下り(もちがさがり)」と表記されたほどの難所は、ダム工事によって見るも無惨に削られてしまっている。胸が締め付けられるような思いがする。
西峰から本峰までは背丈ほどもあるチシマザサの藪こぎ。所々に付けられたテープがなければ、またもう少し登山時期が遅ければ無茶苦茶難儀な道である。10時28分、山頂に到着する。写真左は三角点とその奧に能郷白山。右は雷倉と左奧に加賀白山。国土地理院の「点の記」は作られていないが、点名は花房山ではなく「水飲」となっている。考えてみれば不思議な点名だが、点名が山頂そのものではなく、近くの特徴ある地名から付けられることはよくあることだ。すぐ下には二重稜線となった谷があり、今日も雪渓が残っていた。水場のない登山道だが、二重稜線の間には意外と湧水点があるのかもしれない。
誰もいない、そして見渡しても誰も来そうもない山頂を独り占めにする。ササが伸び、西峰ほどの眺望ではないが、それでも360度には違いない。直射日光は強く、長袖を脱いでTシャツ1枚でも全く寒くない。無風である。しかし、おかげでたくさんの虫が頭の回りにいっぱい飛び交っている。これはかなわんので、持参した蚊取り線香に火をつけ、腰にぶら下げる。今年初めて線香が役立った。湯を沸かして、コーヒーを飲む。のんびりと休息してから山頂を後にした。西峰への藪こぎは、往路よりもやっかいで、踏み跡を見失いがちになる。赤テープを慎重にたどる。西峰でもう一度眺望を目に焼き付けて、11時31分下山開始する。写真左は西峰からの下山路。下山路は往路を戻る。写真右は岩稜のやせ尾根(12時08分)。登山時以上にスリル満点である。このやせ尾根を通過すると、中高年の夫婦らしき2人と出会った。誰も登ってこないだろうと思っていただけに、ちょっと驚いた。最後の急傾斜にかけられたロープをありがたく使わせていただき、快調に下山。
13時33分登山口に到着(写真左)。寒さの中で登山を開始したが、下山時にはかなり暑かった。藤橋城広場の自販機にお世話になったことはいうまでもない。写真右は横山ダム湖から見た花房山。
※登山道にはイワウチワの大群落があったが、すでに花期を終えていた。先週だったら見応えがあったかもしれない。スミレの他、チゴユリや、登山口にはシャガとラショウモンカズラが咲き始めていた。途中で出会った登山者が、「ここは花が多いと聞いてきたが、ありませんね。」と言うとおりだった。
※花房山へのルートは他にもあるようだが、今日のルートが一番大変かもしれない。そのためだろうか、このルートから登る人はそれほど多くないのかもしれない。町から来れば、東杉原まで入るのが大変ということねあるだろう。しかし登山道は過度な整備がされていないかわりに、荒れてもおらず静かな、しかしスリル一杯の登山を満喫できる。ただ、最後のヤブこぎを考えると、登山適期は限られるというのが感想である。
※数年前になるだろうか、某山岳会が花房山で遭難という事件があった。幸い、一夜を山で明かしただけで、全員無事だったのだが、藤橋村の消防団が出動した。遭難の原因は参加者の一人が怪我をして、そのためパーティを分割し、一部が下山、残りは別ルートで下山しようとしたことにあった。山岳会といっても、中高年中心の初心者や経験の浅い人がほとんどだったという。今日のルートは決して初心者向きとはいえないことは明記しておきたい。

花房山西峰からの360度の眺望