金華山(330m)
2003年7月27日
長野県大町市扇沢より

7月26日の昼、東海地方の梅雨がようやく明けたとのこと。それにしては真夏の暑さにはほど遠いように感じられるが、それでも梅雨明けの便りを聞くとうれしい。思い立って、車を走らせた。目的地は後立山連峰爺ヶ岳、というより鹿島槍ヶ岳への登山道である柏原新道を歩いておきたいという目論見、である。甲信地方の梅雨はまだ明けないらしいが、まあ雨がふるのでなければよしとしよう。ところが、大町から扇沢駅駐車場に夕方到着した頃には一面のガスの中。おまけに霧雨が降っている。柏原新道登山口はもう満車状態だったので、みんな登っているのだろう。扇沢駅駐車場は登山口に近い方が市営の無料駐車場となっている。ここで車の後席を倒して、寝袋にうずくまる。夜中3時頃に寒さで目が覚めると、満天の星空だった。大接近を迎えている火星がひときわ赤く輝いていた。4時に湯を沸かし、朝食をすませ、5時に駐車場を出発。扇沢駅の奥にはスバリ岳の稜線が見えている(写真左)。5時10分、登山口に着く(写真右)。そういえば4時頃から懐中電灯の光が登山道を登っていった思い出す。こんなに天気がよいならば、ガスが上がってこないうちにと考えるのは誰しも同じ。
柏原新道は初心者向けとガイドブックに記されているが、これは技術を要するコースでないことと、危険な箇所が少ないということだろう。登山口の標高が約1350m、爺ヶ岳中峰が約2670mと比高差1320mに及ぶ。よく整備された登山道は最初が少し急登となる。どんどん高度を稼ぐと、扇沢駅駐車場の後ろには針ノ木岳とスバリ岳の稜線が朝日に鮮やかに照らされている(写真左)。時計を見ると6時9分。約1時間歩いたこととなる。6時11分にケルンを通過すると、稜線に種池山荘が見える。見上げると恐ろしく遠く感じる。7時7分、石畳手前で種池小屋を見上げる(写真右)。石畳を過ぎると「水平道」と看板にあるようにゆるやかに登山道は続く。あれほど快晴だった空は、いつの間にかガスが立ちこめ始めていた。この頃になると山荘から下山する登山者とすれ違うようになり、出会うたびに何時に山荘に出たかを聞く。山荘が間近なことがどんどん実感される。
雪渓を渡り、再び急登の道をあえぎながら歩くと、種池山荘が目の前に飛び込んできた(写真左)。8時7分、種池山荘に到着。山荘前にはチングルマやミヤマキンポウゲ、コバイケイソウ、キヌガサソウ、コイワカガミが一面に咲き誇っていた。写真右は山荘横にある種池。池というより小さな水たまりといった感じである。
ザックをおろし、休みながら登山道を見下ろすと、次から次へと登山者が登ってくる(写真左)。ガスも一緒に上ってくる。もう今日の眺望は多くは望めそうもない。大休止後の8時29分、爺ヶ岳を目指す(写真右)登山道には雪がまだ残っていた。爺ヶ岳南峰はガスの中。中央峰も同じようなので、南峰を今日の最終目的地とする。
登山道に咲くコバイケイソウと爺ヶ岳南峰とその向こうは中央峰(写真左)。登山道から種池山荘と立山連峰を見る(写真右)。青空と稜線がまぶしい。このあたりの尾根は規模は小さいながらも二重稜線となっているようだ。爺ヶ岳南峰は目の前に見えていて、しかも登山道は急登でもなんでもないのに、なかなか近づいてこない。
登山道横に咲くキバナシャクナゲ(写真左)。立山連峰を背景に、今が盛りと咲いている。鹿島槍ヶ岳はガスの中(写真右)。稜線を境にして信州側から無尽蔵に吹き上げてくる。稜線鞍部に冷池山荘が見える。モノキュラーで覗いてみると、既にトイレの改修工事が始まっているのが手に取るように見えた。鹿島槍ヶ岳の眺望は次回へのお預けとしよう。
9時21分、爺ヶ岳南峰に到着した。大町方面は全く見えないが、立山方面はわずかながらの眺望が残っていた。ほとんど無風状態で、涼しい。こんなことなら昼寝をしてもいいとさえ思ってしまう。山頂で塩尻から来たという夫婦2人連れと長岡から来たという男の人といろんな話をしてひとときを過ごす。後から登ってきた人も含めて、計5組ぐらいから写真の撮影を頼まれてしまった。「いつもは人に連れてもらって山へ来ているが、今日は初めて1人で来た。その証拠写真を。」とは、私に写真撮影を頼んだ年配の女性の方の言葉。のんびりと時間を過ごして、10時30分に山頂を後にする。種池山荘では山荘周囲の花の写真をじっくり撮ることができた。山荘で販売されている生ビールは900円。下界の3倍が相場というからそんなものなのだろう。のどから手が出るほど飲みたかったが、いやいやビールは今晩にとっておくとしよう。11時35分、山頂を後にする。下山路は往路を戻ったが、標高2000mより上はガスの中だった。登山口着は13時33分。真夏の太陽が照らす道を、扇沢駅まで歩いて戻った。今日の行程でこれが一番きつかったかもしれない。頭からペットボトルの水をかけて歩いたが、したたり落ちる水が心地よかった。

※爺ヶ岳は後立山縦走の通過点として登られることが多いが、ここだけを目的としてもいい山だ、と思う。もしガスさえなければ360度の大眺望が約束されている。柏原新道はよく整備されている。部分的に岩盤を割ったり、丸木が渡しかけてあったり、割石が敷かれていたりと、この道を開いた柏原氏の苦労は並大抵ではなかっただろう。それと同時に現在のこの道を維持しておられるご苦労にも感謝したい。標高差はあるが知らぬ間に標高を稼ぐことができる、という感じである。ただ、道のりは長い。帰路にたくさんの登山者とすれ違ったが、その多くが登山道で大休止している姿だった。自分もまた登山時には同じ姿だったわけである。